ラディコン訪問 1回目 1/2

Radikon-Stanko

イタリアの自然派ワインが好きな人なら、一度は訪ねてみたい生産者だろう。
スタニスラオ・ラディコン。(通称スタンコ)

今や、グラヴナーに並ぶ、フリウリの自然派ワインのスターである。

すこし粗暴な雰囲気がする、スキンヘッドの大男。
白髪交じりのヒゲをたくわけ、まるでシティ・ハンターに出てくる「海坊主」のような厳つさだ。

ラディコンは、同世代の生産者である、近隣のニコ・ベンサ(ラ・カステッラーダ)、ダイリ・オプリンチッチとともに、「オスラヴィア悪がき3人組」とも呼ばれている。
逢うまでは、かなり癖のある怖い人なのではないかと、かなり覚悟をしていたが、満面の笑みで迎えてくれた。

「おお。よくきたな。 ホテルにはちゃんと泊まれたか?」
「宿代は、ちゃんと自腹ではらっといてくれよな(笑)」

なんだか、とても面倒見いい「兄貴」という感じだ。

「とにかく、今日は、俺に任せろ」、とでもいうのだろうか、僕が話を切り出す前から、次々と提案をしてくる。

これも、予めラディコンにアレンジを依頼して下さった、ヴィナイオータ太田社長のおかげである。

ラディコンの畑

ラディコンの畑

長男サーシャと耕作機のメンテナンスをしている途中だったので、納屋に片付けるまでの間、奥様のスザーナさんが、畑をガイドしてくれた。
「崖」のような急斜面の畑に、メルロー、ピニョーロ、リボッラ・ジャラがたわわに実っている。

僕がが訪問した前の週は、ワイン法で定められた、ソーヴィニョン・ブランの収穫が終わったばかりの時期だった。
その翌週からは、リボッラ・ジャラの収穫が始まる。
その束の間の訪問だったので、彼らにとっては、作業の邪魔にならない、ちょうどいいタイミングのようだった。

ワイン法に従うならば、コッリオにあるワイナリーは、ほぼ同じ収穫スケジュールで動いている。
今後、収穫期に訪問するには、ワイン法のスケジュールも念頭にいれるべきだろう。

オスラヴィアにある、ラディコンの畑は、文字通りの真南向きの、切り立った急斜面にある。(Google Earthでぜひ確かめてほしい。)

畑の上部には黒葡萄が中心に植えられており、訪問した時期は、小さなメルローの房が、パンパンに粒がはち切れんばかりに膨れていた。
radikon-melrot
ラディコンのメルロー畑

葡萄の樹は、1mに4本間隔、 Doppio Guyot (ギョー・ドゥーブル)という伝統的な植樹方法で仕立てられている。
また、樹1本に対して、最大5房まで収量制限を行う。
足下の雑草は除草せず、ボーボーのままである。

ラディコンのピニョーロ

フリウリ固有の土着品種「ピニョーロ」の房も見事に実っていた。
メルローに比べ、実は、ひとまわり小さい。
まるで数珠を束ねたような葡萄の房が、棚に連なっている。

ピニョーロはメルローに比べ、栽培が難しく、少量しかできない、貴重な品種らしい。
かつては、レフォスコ種同様、フリウリの赤ワイン用品種としてメジャーな存在だったが、栽培のむずかしさやマーケットニーズの変化によって、ピニョーロを栽培する農家は姿を消していった。
ピニョーロの木は引き抜かれ、かわりに、メルローやカベルネといった外国のブドウ品種が主流を占めるようになった。

しかし、海外からもイタリアの地葡萄のワインを見直す流れがではじめ、その素晴らしい葡萄を復活させようと、意欲ある生産者が僅かだが出始めてきている。
現在、ピニョーロの有名な生産者といえば、ジローラモ・ドリゴや、ミケーレ・モスキーニ、ブレッサンなど名があがるが、かのグラブナーも、ピニョーロを仕込みはじめた。
ラディコンも葡萄のポテンシャルを信じて疑わない。

セラー入口には、熟成中のピニョーロ樽が置かれていてる。
樽には、チョークで太田社長の名前が書かれていた。

さらに、スザーナさんと、畑の中を進む。
ガイドしながらスザーナさんは、収穫直前のリボッラ・ジャラの実を、次々とつまみ、口に運びながら、進んでいく。
リボッラ・ジャラとは、この地方固有の白ワイン用の地葡萄。
酸味はソーヴィニオン・ブランやシャルドネといった葡萄よりも乏しいが、爆発的な果実味と複雑さがある。

2~3歩進んでは、一つまみして、「ん! 甘い」。
また、2~3歩進んで、一つまみし、「ん! 甘い」。
実の状態をチェックしているのか、単なるおやつ代わりなのか、区別がつかない。

ラディコンのリボッラ・ジャラ畑
時より黒く変色し萎んだ、リボッラ・ジャラの実をみかける。
なんでも、陽を浴びすぎると、黒く変色し、萎んでしまうらしい。
かれらは、日々畑との格闘のさなか、こうした不良の実を発見次第、すぐに排除する。
足下の草むらには、詰み落とされた不良の房が点在していた。

頭上に響く小鳥の歌声。
飛び交う昆虫。
葡萄の樹の影に隠れるトカゲ。
足音に驚き、猛ダッシュで逃げる野ウサギ。

数分散策しただけで、この急勾配の畑が、小さな動物たちにとって、豊かな生態系となっていることがわかる。
農薬なんかに汚染されていない。
ここは、本物のナトゥラリスタが作り上げた、「楽園」なのだ。

スザーナさんに習い、リボッラ・ジャラの実をを口に運ぶ。

これまで様々なシチュエーションでワイン用葡萄を口にしてきたが、これほどまでに極端な甘さは初めてだった。
まるで、蜜のような甘さ。
日本の食用葡萄の糖度など、足元にも及ばない。

リボッラ・ジャラの棚の間に、なぜか、メルローの樹が、ぽつんぽつんと目印のように植わっている。
植樹した際、誰かさんが悪戯したらしい。

更に畑を降りる。
今度はチニャーレ(イノシシ)の新鮮な足跡を発見した。

ラディコンの畑を下から眺めた

下がったら、上がらなくては。
急勾配の畑を上るのは、本当にシンドイ。
息を切らせながら畑を登る。

ラディコンのセラーへ

スタンコは、畑を上ってくる僕を、「待ってました」とばかりに、セラーへと迎入れた。
ラディコンのセラー

セラーの中には、いくつものボッディ(大樽)と古びたバリックが並んでいる。

断面が円状になっている大樽に混じり、細い縦長の楕円状の大樽が並べられている。
スペースの限られた小さいセラーには、この縦長の大樽はとても頼もしい存在らしい。

セラーでのテイスティングは、直接大樽のコックから注がれた「オスラヴィエ 2005」からスタートした。
さらに、「オスラヴィエ 2006」へと続き、「ヤーコット(トカイ)2005・2006」、「リボッラ・ジャラ 2005・2006」へと進んでいった。

器用に、長いスポイトで、グラスにワインを注ぐスタンコ。
舌鼓をしている僕の顔をのぞくたびに、ニヤリとほくそ笑む。

横から、スザーナさんは、2005年の不作を嘆く。
2006年ヴィンテージは、満足のいく出来栄えのようだが、なかなかどうして、2005年も相当なレベルだ。
ラディコンの「当たり前のレベル」は、桁外れに高いのである。

個人的な意見を言わせてもらえば、繊細な日本食の味付けと合わせるなら、果実味豊かな暑い年のワインよりも、2005年ヴィンテージのように、少し控えめなワインの方が適していると思う。

一方、暑い年のラディコンのワインは、果実の塊が襲いかかる、まるで「野獣(ビースト)」のような味わいだ。
2003年、2006年はとても暑い年だった。
訪問した2007年も暑い。
今年もモンスター級のワインが生み出されるのだろう。

Stanko-Radikon-make-a-wine
先週収穫したばかり、マセレーション(果皮浸漬)の最中であるソーヴィニョン・ブランの詰まったトノー(木製開放型発酵槽)。

僕がリクエストをしていないにもかかわらず、
「いいか、これを毎日やるんだ!」と、ピジャージュ(攪拌)する様子を、実演してくれた。

もう、サービス精神満点すぎるぞ、ラディコン。

イタリアの濁酒(どぶろく)

「あれ、ソーヴィニョン・ブランて白ワインの葡萄じゃなかったっけ?」
「白ワイン用の葡萄を、なぜマセレーション(果皮浸漬)するの?」
不思議に思われた方は、ワインをご存じの方だとお察しする。

ピジャージュの様子

ラディコンを始めとする、いわゆる「自然派」とよばれる、オスラヴィア周辺の生産者達は、白ワインを一般的な赤ワイン造りのように、葡萄の皮を搾汁に浸しながら一次発酵(「醸し」の作業)を行う。

彼らは、身の丈よりも高い、木製の発酵槽の上にハシゴでよじ上り、葡萄ジュースの上に浮かぶ果帽(果皮の層)を、先っぽに板のついた棒を使って、豪快にかき回し続ける。
空気に触れさせることでマセレーションが促進され、葡萄の皮のエキスがジュースに浸み出で、まろやかな舌触りと味わいに複雑さを与える。

ラディコンは、この作業を白葡萄の場合、約10日~14日間行うそうだ。

多少濁りのある、こうした白ワインを、僕は「フリウリの濁酒(どぶろく)」と呼んでいる。

もちろん、ラディコンは、セレクション酵母なんか使わない。
天然酵母による自然発酵のみである。

前述の「ピジャージュ」作業を、スタンコは、1日に4回、すべて人力で行う。
モダン・バローロの造り手達が愛用している、ロータリーファーメンターのような、ハイテク器機など、彼らのセラーにはない。

その労力を目の前にし、言葉もない。
畑での苦労話に耳を傾けながら、セラーで飲む一滴に、改めて身が引き締まる思いだ。

先ほどのオスラヴィエ2006を、おかわり。
飲み進むごとに、じわじわと旨味が込みあがてくる。
思わず日本語で「くわっ!うんめ~~~ぇ」と口をついてしまった。

また、ニヤリとほくそ笑む、ラディコン。
おいしいワインの前に、言葉の壁は存在しない。

(つづく)

2007年9月訪問

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