La Colombera (ラ・コロンベーラ) 訪問 1/2

La-Colombera_Semino_family
Il Montino (イル・モンティーノ)。
赤ワイン王国ピエモンテ州で生まれた、小さなサプライズ。
静かな田舎町に密かに受け継がれた、白ブドウで造られた逸品。
その可憐とも言うべき味わいは、Snow White (白雪姫)のように清純だ。

不遇の葡萄、ティモラッソ

ミラノのジェノバを結ぶアウトストラーダ(A7)の丁度中間あたり。
ピエモンテ州の北東に位置するアレッサンドリア県に、トルトーナという(小さなローマ)を語源とする、歴史ある街がある。

このアレッサンドリア県を中心に、「ティモラッソ」という葡萄が栽培されている。
近年一部のコアなワインファンから高い支持を受けている白ワイン用の品種なのだが、この葡萄、一度は歴史の舞台から姿を消した、忘れ去れらた品種である。

もともとティモラッソは、地元の人々にとって馴染みの品種だった。
複雑な芳香としっかりしたボディが特徴的で、今日のような単一品種ワインのニーズが高くなくない時代は、コルテーゼ種や他の品種と共に混植されていた。

1970年代になると、白ワインのマーケットに異変が起こる。

ピエモンテ州の南、海に接する州であるリグーリア州(有名なジェノバ港がある州)を中心に、コルテーゼ種を主原料とする、超辛口白ワインの一大ブームが起こった。
リグーリアの漁師たちが、新鮮な地元の魚介類によくあう、レモンのような強い酸味とフレッシュ感のあるワインを求めたのだ。
所謂、「ガヴィ」ブームの到来である。

事実、ピエモンテ州とリグーリア州の境にある「ガヴィ市」および、その生産地の「アルト・モンフェッラート」は、この白ワインブームのおかげで、ゴールドラッシュに湧いた。

この流れに便乗するかのように、アレッサンドリア県においても、多くの農家が、ティモラッソ種の葡萄の木を引っこ抜き、コルテーゼ種へと植え替えを進めていった。

更に時代が進むと、マーケットの変化が起こった。
悪しき「単一品種」礼賛時代への突入である。

シャルドネやリースリング、ソーヴィニオンといった、外国産品種の苗木で造った白ワインが、イタリア各地で次々生みだれていった。
ピエモンテ州においても同様である。

この時代、「シャルドネ」「カベルネ・ソーヴィニョン」といった、有名品種の名前がラベルに書かれていて、さらに強いバリック香のワインを造っていれば、面白いように生産者にお金が入ってきた。
そんなワインを、アメリカのニューリッチ達や、バブル日本人が、有難がって買い漁った。

イタリア国内で造られる外国品種ワイン、更にはフランス等の他国から輸入される高級ワインが大量に流通される中、冴えない田舎品種であるティモラッソ種は、トルトーナの僅かな生産者達が自家消費用に細々と栽培する分の残し、イタリアのワイン市場から姿を消すこととなった。

ところが、1990年中頃になると事態は一辺する。
イタリアの地葡萄を再発見するムーブメントが起こった。

また、先進国共通の深刻な健康問題である「肥満」に対する、食のヘルシー化、も大きな変化だ。
鳥や魚といった、高たんぱく低カロリーな料理と合わせやすい、スパークリングワインや白ワインのニーズは、正にうなぎ登りである。

ティモラッソの復権

そんな中、ワインガイド雑誌やワイン・ジャーナリスト達の間で、あるワインが注目を浴びた。

リースリングのよう長く繊細な酸味。シャルドネのような華やかな香り。
オイリーな舌触り。
何より圧倒する葡萄の凝縮感。

「なんだ、この白ワインは?」
「ぐんぐん伸びてくる!」
「ブルゴーニュのワイン?」
「ティモラッソ ?  聞いたこと無いぞ??」
「ピエモンテ産???  嘘だろ?!」

長きにわたり虐げられてきた哀れなシンデレラが、魔法使いの力を借りて、舞踏会で王子の心を射止めたかのような、まさかの逆転劇。

不遇の時代を過ごしてきたこの田舎品種は、今や世界中のワイン・ファンから羨望の眼差しを集めている。

葡萄に魔法をかけたのは、Piercarlo Semino(ピエルカルロ・セミーノ) と、その娘 Elisa Semino(エリザ・セミーノ) 。
親子が造る、最高のティモラッソの名前は、Colli Tortonesi Timorasso ” Il Montino ” (コッリ・トルトネージ・ティモラッソ・<イル・モンティーノ>)。

初めてリリースされた ” Il Montino 2006 ” が、ガンベロ・ロッソでトレ・ビッキエーリを獲得した。
Elisa が、女性醸造家として歩み始めて、すぐの出来事だった。

La Colombera (ラ・コロンベーラ)の歴史

1937年、Piercarlo さんの祖父である Renato が、アレッサンドリア県のトルトーナの町の郊外にある「Vho(ヴォ)」という村で、ワイン用の葡萄を栽培しはじめたことが、起源である。

1950年代にはいり、父 Pietroさん(2代目) が、本格的に葡萄栽培の事業を軌道に乗せるべく、大幅な畑の開拓を行なった。

実際に、ラ・コロンベーラとして、醸造・瓶詰めを開始したのは、Piercarlo さん(3代目)が主たる働き手となった、70年代になってからである。

1997年、自社の畑を14ヘクタールに拡張。

1998年、5数カ所に点在している畑に、ティモラッソを植える試みを開始。

2000年、これまでティモラッソを守り続けてきた生産者達に対する感謝と、地元の振興を願い「 Derthona (デルトーナ)」としてリリース。

2006年、これまで5箇所に植えていたティモラッソの畑の内、過去5年間の Derthona の実績から、出来映えのよかった最良の畑を1箇所選び出し、「 Il Montino(イル・モンティーノ)」としてリリース。( ※ 現在、Derthona は4畑をブレンド )

現在、畑は22ヘクタールにまで広がっている。


Derthona(デルトーナ)とIl Montino(イル・モンティーノ)の違い

同社の主力商品である2種類のティモラッソ「 Derthona 」と「 Il Montino 」は、味ワインに異なる特徴がある。

「 Derthona 」の方は、押し出しが強く骨太でパンチがあり、品種の個性を、より強く表現している。

「 Il Montino 」は、「地場品種でここまで繊細な表現ができるのか」と驚かされる程エレガントであり、フィネスに溢れるワインである。

同社では、他にも、「クロアティアーナ」種や、ドルチェットの亜種である「ニビオ」という、あまり知られていない地場品種のワインを生産している。
また、娘 Elisa の名前を冠した、柔らかい味わいのバルベーラも魅力の商品である。

La Colombera (ラ・コロンベーラ)の畑へ

Il Montino の畑。
ひとつひとつ、自分達の想いや情熱を込めて、とても丁寧に説明してくれる Elisa 。

La-Colombera_cru_Il_Montino
La-ColomberaのElisaによる解説
La-Colomberaのティモラッソの木
ラ・コロンベーラのイル・モンティーノ畑

更に畝を下っていくと、Deltona用の畑がある。
デルトーナの畑



下の画像は、各畑の分布図である。
真ん中あたりの「黄色い(緑で小さなイラストがはいっている)」の畑が Il Montino。
マゼンダ(強いピンク)が、4箇所に点在する Deltona 用の畑である。
ラ・コロンベーラの畑の分布図

(次へ続きます)


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