La Castellada (ラ・カステッラーダ)訪問 :2度目 1/3 @ DEVETAK (デヴェタク)

上州(群馬)名物 『かかあ殿下と空っ風』。

ニコ・ベンサの奥さん、ヴァレンティーナさん

イタリア女性の「かかあ殿下」ぶりはとても有名ですが、マニアックなワイン生産地であるフリウリの、しかも一際アクの強いゴリツィアの巨匠達の奥様方に至っては、僕ら日本人には想像を絶するものがあるように思う。

ニコニコと笑いながら、旦那を目で殺し、シュンっとさせる姿を、何度も目にする。

今回、多くのカンティナを訪問したが、巨匠達のもとを訪ねるたび、その行く先々で、
「これまで、どこん家(カンティナ)に行って、その様子はどうだった?」と、ニコニコと笑いながら尋問され、
「へえ~。で、良かったらウチでご飯食べていかな~い?」という、実に有り難い展開を多く経験した。

これはあくまで僕の直感なのだが、所属するグループの生産者やご近所同士で、訪問客(とくにワイン関係者)を紹介しあっているだけでなく、ある種の『おもてなし合戦』を楽しんでいるようにも思える。

もしかしたら、奥さん同士で「あそこの家には絶対負けられない!」というような、ある種のライバル意識があるのかもしれない。

そうした事情があるのか、ないのか、わからないが、ゴリツィア滞在中はどこのカンティナに行っても大変な歓迎を受け、文字通り「大変おいしい想い」をさせて頂いた。

その中でも特に印象に残ったのが、La Castellada(ラ・カステッラーダ)のニコロ・ベンサの奥さん、Valentina (ヴァレンティーナ)さんだ。

昨年 Gruppo Vini Veri mini in Giappone in Tokyo でラディコンやニコ・ベンサ達一向が来日した際、ヴァレンティーナさんは脚光を浴びる夫達の姿を物陰から静かに見守っていた。

今回2度目となる現地訪問で、実際はとても活動的で、情に厚く、底抜けに面白い人ということを知った。
もし、ルイジ・ヴェロネッリ氏がまだ生きていて、大人になってもわんぱくな醸造家の夫を如何に巧みに操縦しているかを評価するガイド本を書いていたら、彼女は間違いなくソーレ(太陽)を獲得しているはずだ。

特に印象深い出来事は、僕ら夫婦が、ゴリツィアに着いた、その日の出来事。

「エディ・カンテ? は! 奴は、明日ブラジルだし、ほっとけば??(苦笑)」
と「行く価値、ねぇよ」と遠回しに言ってくるニコに向い、

「トールが行きたいんだから、行かせてやればいいじゃないの! 」
「私が電話するから、ア・ナ・タは黙ってなさい!!」

と軽く一蹴。

すると、すかさず、僕らのスケジュール表を奪い取り、その場でエディ・カンテの家に電話。
なにやら交渉を始めたかと思うと、スケジュール表ももったまま事務所にこもること30分。なんと、知り合いの生産者に片っ端から電話をかけ始めたらしい。

どうやら彼女は、ものすごい世話付きな性格なようで、まるで自分の旅行スケジュールを組むように、僕らの旅のアレンジを行っているようだった。

その間、叱られて、外でしょんぼりしているニコと世間話。
しばらくすると、彼女は大変満足そうな面持ちで僕らのもとへ戻ってきた。

僕らのスケジュール表には、エディ・カンテだけでなく、お薦めカンティナの名前と訪問日時、更には、レストランの予約や食事の予定まで、ビッシリ書き込まれていた。

あとは僕らが、万事ぬかりなくこの予定通りにスケジュールをこなすだけ。(むしろ、こなし損ねた時、そのことがバレること方が恐ろしい。)

達成感に満ちた笑顔のヴァレンティーナさんに対して、ニコと言えば、どこかあまり浮かない顔をして、その様子を黙って見ていた。

そして、きました!
「も・し・よかったら~♪」という奥さんのご提案。
ニコ夫妻と4人で、晩ご飯を食べに。(8時間運転してきた直後だが、ここまで「おもてなし」をされたら、疲れているのでホテルに帰って眠りたいなど、口が裂けても言えるわけがない……。)

Trattoria Gostilna DEVETAK(デヴェタク)。
デヴェタクの玄関
1870年と刻まれた入口のレリーフ

ゴリツィアからトリエステ方面に車で20分程南下し、S.Michele del Carsoの山中を進むと、木々の生い茂る静かな小山の一角に、農家を改造したお洒落なオステリアが見えてくる。
スロヴェニア伝統料理の店、DEVETAK(デヴェタク)。
店に差し込んでくる、山の湿った夜風と木々の香りがとても心地よい。

ここはレストランだけ無く、見事な宿泊施設も併設されている。

ニコ曰く「ここのファミリーは、代々バッカラ(干鱈)専門の料理屋だったんだが、徐々に人気になって、今や大繁盛の店」なのだそうだ。

金に物を言わせた食材でつくる料理屋でなく、文字通り地元ゴリツィアに根ざし、成功した信頼できる店、味も素晴らしい、とのこと。

ニコ・ベンサと奥さん

テーブルに着いた当初は、旅の疲れと言葉の壁のせいで、いまひとつ会話は弾まなかったが、ウチの嫁がヴァレンティーナさんに、今年結婚25周年を迎えたベンサ夫妻の出会いの話を尋ねたところ、突如空気が一変。
少女のように目を輝かせ、当時の様子を語り始めた。

二人の出会いは、それぞれの友人同士(2対2)のダブル・デートでスキーに行った時だったらしい。
若き日のニコは、知的で、とてもハンサムな男に、彼女の眼には映ったのだそうだ。
ニコと結婚しようと思った理由は、「もうその時ステ(ステーファノ)がお腹にいたから!」だそうで、つまり今流行の「デキ婚」だったらしい。

うちの奥さんも、この手の話が大好きなようで、ほぼ初対面にかかわらず、やたらヴァレンティーナさんと盛り上がる。
こういう話をする時の女性って、どうしてこんなに嬉しそうに喋るんだろうか?

ますますエンジンがかかるヴァレンティーナさん。
片やニコは、ちょっと小さくなって、黙ってワインリストの端から端まで舐めるように読みふけっている。

「ったく、今そんな話しなくても……。」とでも言いたげに、ほんの数枚しかないページを、何度も何度も繰り返し、めくっていた。

照れくささ半分、無関心半分のニコ。
面白くもあり、少しだけ可哀想な感じ。相当凹んでいる。

そうこうするうちに、お店のご厚意でアペリティフが供される。
駆けつけ1杯目のブラインドテイスティング大会は、「トカイ・フリウラーノ」と言い立てた僕の勝ちだった。(ニコは「マルヴァジア」と誤答)

穴の空くほど睨んだワインリストからニコがチョイスした1本目は、スロヴェニアの造り手 Marko Fon(マルコ・フォン)のマルヴァジア

ニコ達と同じく、マセレーションした白ワインを造る自然派の造り手のワインである。

シャルドネのような華やかな香りが支配し、マロっぽいニュアンスを感じた後、マセレーションしたタイプ特有の甘いオレンジのような香りが上がってくる。

高いアルコール感とマルヴァジア特有のドライさが口に残る。
バリックのニュアンスもくっきり残っている。
ありそうでなかった新しいタイプのマルヴァジアだ。

料理は4人とも、好きなものを(プリモとセコンド)チョイス。
プリモは、ニコと私は豆のフリットのレバー・ソースがけを。
嫁はセロリのスープ(添え付けに黒オリーブを砕いたもの)、ニコの奥さんはサラダをオーダー。
豆のフリットは、沖縄のサーターアンダギーのようなモッサリとした食感。
レバー・ソースとマルヴァジアの相性の良さは、地元の人なら皆知っている。

セコンドは、僕とニコ夫婦はラム肉のソテー。ウサギ好きの嫁はウサギをガブリ。

2本目のワインは、コルモンス産の赤ワイン。
Renato Keber(レナート・ケーベル)の2001メルロー。8300本の少量生産とのこと。

レナート・ケーベルはEdi Keber(エディ・ケーベル)の従兄弟にあたる。

しかしせっかく貴重なワインだが、樹齢の若さを如実に感じしていまい、複雑さに欠け、タンニンがざらついている上に不自然な苦みも出てしまっていた。

ニコの評価も「もっとマセレーションが必要。青臭い香りも頂けない。」とのこと。

楽しい食事の最中に、自分達の選んだワインを悪くは言うのは、なんとも興ざめな感じだが、ワイン生産者相手に飲む時は、僕は遠慮無く自分の感じることを言ってしまう。何より正直な感想をキチンと伝えた方が、彼らに対して誠実な事だと信じている。

この1杯を境に、ワイン談義が勃発。
今までの抑圧を跳ね返すかのように、ニコがワインや造り手について語り始めた。
水を得た魚。もうどうにも止まらない。

また、僕も知りたいから、どんどん質問する。

ニコの奥さんはと言うと……、完全無表情。「赤の他人」モード全開。

ニコは、どうやらカンテグラヴナーとは、ウマが合わないならしく(もしくは無茶苦茶仲が良いのか)、彼らの話になると、もうどうにも止まらない。

「2004年のようなビッグ・ヴィンテージの年にはな、この辺の造り手達は、みーんな怠けてしまうので、良いワインにならないぞ!」
「あのカンテの野郎は、ブラジルにワインを造りに行くつもりだぞ!!(笑)」
「グラヴナーはルーニョを03で止めると言っていたが、奴の事だから04、05もきっと造るに違いない!」
(これ以上は過激過ぎて書けない。)

どうもこの日は、ニコとヴァレンティーナさんとの会話が、いまひとつかみ合わない。
日本で食べた料理が「韓国料理」だったのか「中華料理」だったのかで、口論勃発。
出てきた料理を口に頬ばりながら、お互い一歩も引かない。
来日した際は、東京・京都・札幌などを訪ねたそうだが、ヴァレンティーナさんは特に京都が大変気に入ったらしい。一方、東京の喧噪はいまひとつ性に合わなかったらしい。

雰囲気の悪さに限界を迎えた奥さんが、レストランの外にいって休もうと皆を誘い出す。

その途中で地下セラーへと繋がる入口を発見。
デヴァタクのオーナーの許可を得て、皆で潜入。

なんと、そこは我が目を疑う程のお宝ワインの山だった。

デヴェタクのオーナー
モンフォルティーノの山
カルソの生産者のワイン
レ・ドゥエ・テッレのインプリチート

G.コンテルノモンフォルティーノの90年代のボトルが、タンマリ。 もう笑いが止まらない。
ボーイズ系のバロリスタ達の木箱も、至る所山積み状態。

ニコやスタンコ達、ゴリツィア自然派軍団のワインも、木製の大きな棚にズラリ並ぶ。

ムレチニックさんを初めとするスロヴェニア側の造り手に、トリエステ周辺の造り手。
箱詰めされたグラヴナーのワインは、奥の部屋に格納されている。

エディ・カンテのセレッツォーネ、レ・ドゥエ・テッレの「インプリチト」、ミアーニのメルローなど、希少性の高いフリウリのワインが、足下にごろごろ。

更には「サッシカイア」等のスーパートスカーナ、南ではサルディーニャのアルジオラス「トゥーリガ」など、ワインガイドではお馴染みの有名ワインが所狭しと置かれている。

カステッラーダとラディコンのワインの山

G.コンテルノの山に大騒ぎして写真を撮る僕の様子を見て、
「トール、ウチのワインもちゃんと撮りなさい!!」(ハハッ!!直ちに!)
とヴァレンティーナさんから檄が飛ぶ。
G.コンテルノの真横の一角を占めているなんて、やはりニコやスタンコの造るワインはフリウリでは別格扱いなのである。

レストランの地下でワイン談義

気がつくと、ニコはレストランオーナーと、また喧嘩するようにワインの話をしている。(ここではこれが当たり前だのだろうか? 二人してマシンガンのようだ)

ヴァレンティーナさんは、全く聞こえないかのように知らんぷり。
たまに適当に話を合わすだけ。
時折「ニコにはワイン造りに関してはだけは、自由にさせてあげているのよ♪」というような笑みを浮かべ、僕らに向けて目配せを送っていた。

この時僕は、造り手の奥さん達の言動を注意深く観察することによって、そのカンティナの内側や、家族の歴史が見えてくるのだと確信を得えた。

ゴリツィアの巨匠達は、皆、こんな感じで奥さんに首根っこを捕まれているのかもしれない。
そして、ゴリツィアの女性達、強過ぎです!

La Castellada | ラ・カステッラーダ

La Castellada (ラ・カステッラーダ)訪問 :1度目
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