La Castellada (ラ・カステッラーダ)訪問:2度目 2/3

La Castellada (ラ・カステッラーダ) 当主、 Nicolo Bensa (ニコロ・ベンサ)

ラ・カステッラーダの入り口

今やオレンジ・ワインのメッカでもある d.o.c. COLLIO(コッリオ)のワインの魅力を、自分の言葉でひとさまに伝えることが出来るようになるまで、これまで実に多くのワイン関係者との出会いがあった。

中でも、自分自身のブレイク・スルーのきっかけとなったと感じるのは、昨年 Nicolo Bensa (ニコロ・ベンサ)のセラーを訪問した時の経験によるものだ。
彼の唱えるワイン哲学にじっくり耳を傾けるうちに、自分がワインスクールに年間通って蓄えた知識が、如何に薄っぺらなものだったかを、痛いほど思い知らされたものだ。

「自分の造るべきワインは、消費者にとってどうあるべきなのか」という、尽きない命題に対し、ニコロ・ベンサ(通称ニコ)は、真正面から立ち向かう。

彼は、ただ単に栽培や醸造の分野に、深い見識を持っているワインメーカーというだけでない。子供のようなエゴイスティックな一面みせながら、反面、論理的な思考に裏打ちされた知性と慎重さをもって、ワイン造りのプロセス上の重要な判断を決定していく。

普段のニコは、強烈な個性派が揃うゴリツィアの造り手の中で、誰よりもジェントルな男である。昨年 Gruppo Vini Veri mini in Giappone in Tokyo で来日したときもそうだったが、穏やかな人柄に触れた人も多かっただろう。

が、ひとつ前の記事のように、一度ワインを語り始めたらテコでも動かない頑固ジジイに豹変し、情熱と理念が言葉となって、とめどなく溢れ出だす。そして彼の造るワインは、その情熱と理念をそのまま表現したかのようである。

何より自然で飾りっ気がない。それでいて、どこか飲み手の琴線に触れるかのような、とても不思議なワインだ。

いまやフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州 (以下、フリウリ州)の広告塔的なワインとなった、マセレーションした白ワイン(通称:オレンジ・ワイン)は、決して万人ウケするワインではない。売る側、提供する側にとって、彼らのワインのバックボーンである、中央ヨーロッパ特有の保存食文化に対する理解の深さや、調理方法、食材や料理とのマリアージュ、保管・供出方法など、さまざまな知識が問われる、厄介なワインである。

これまでの日本の西洋料理界の、いわゆる「ニューグランド系」のフレンチにみられる、丹念に仕上げられる繊細なソースの料理との相性の方法論は、まるで通用しない。
実際、都内の有名イタリアンでワインリストに載っていたワインを注文した場合であっても、こと、このオレンジ・ワインだけは、大小とわず、フリウリ州の地場のレストランやトラットリアで体験したマリアージュを超えることはなかった。

なにより、ワイン経験の乏しい飲み手にとっては、これまで口にしてきたどの飲食物とも違う、「謎の濁り酒」にしか映らないだろう。そのせいか、「自然派」「SO2無添加」ワインを十把一絡げに「異臭のする品質の劣るワイン」として、軒並み低い評価を下すレストラン関係者、酒販店も未だ少なくない。

許せないのは、そうした知識の乏しさを「ワインの質の低さ」とレッテル張りをする、日本のワイン文化の浅はかさだ。昨年某マスコミが画策したネガティブキャンペーンには、閉口せざるを得なかった。

ましてや、これまで偽物のビオワインを無知な日本の消費者相手に売りまくっていた連中にとって、ニコやラディコン達を始めとする、ゴリツィアの巨匠たちが造る「ホンマモンのワイン」の存在は、彼らの立場を脅かすであろうことは、すぐに判った。

うれしいことに、僕と同じようなに「ホンマモンのワイン」に想いを寄せるマニアックなワインファンも、最近は増えてきたように感じる。とりわけ、僕ら仲間内の間では、この愛すべきフリウリ州の「厄介なワイン」のことを、「フリウリ変態ワイン」と呼んいる。

愚痴っぽくなったので、話はフリウリに戻す。

彼らの醸造室で試飲するときは、かならず小降りのブルゴーニュ・グラスのような形をしたワイングラスを手渡される。(通称:「ラディコン・グラス」) この「ラディコン・グラス」で飲む La Castellada(ラ・カステッラーダ)のワインは、筆舌に尽くし難い、自然との一体感を体験することになる。

昨年、初めてゴリツィアの造り手のもとを巡った。その時は、英語の話せる 長男のStefano(ステーファノ、通称ステ)に、彼らの造るワインをナビゲーションしてもらった。

印象的だったのは、少し離れたところから、ワインメーカーとしての道を歩み始めた息子の成長を見守る、ニコの優しい笑みだった。 そのステは、今年結婚し、既にニコの家から巣立っていた。

この日は、結婚式の準備でステは多忙なため、ニコと奥さんのヴァレンティーナさんと2人に、ガイドしてもらった。

オスラヴィエ5人組

La Castellada のセラーの扉をくぐると、左手には小さな事務スペースが、右手にはボトル・エイジング用の広い倉庫になっている。その壁には、若き日のヨスコ・グラヴネル(グラヴナー)、ベンサ兄弟、スタニスラオ・ラディコンエディ・カンテの集合写真が飾られていた。

実は、この写真は、1992年にヨスコ・グラヴネルのセラーで撮影されものらしい。昨年、コルモンスのレストラン「SUBIDA」を訪れた際も、店の印刷物に5人の集合写真が掲載されていた。

見ると、若き日の彼らの目は、とても野心的で力強い輝きを放ち、反体制的な臭いすら感じさせる。まるでパンク・バンドのようじゃないか。

彼らの後ろには、当時、グラヴネルが周囲の造り手に先駆け導入した、フレンチ・バリックの山が映っている。ニコの話によれば、1996年までは、グラヴネルはバリックを使っていたらしい。(今はボッティとアンフォラばかり)

何より、ラテン男全開の陽気なおじさん、エディ・カンテが、とてもナイーブな青年に見え、今の姿との変わり様に驚かされた。(うちの嫁は、カンテの奥さんのせいじゃないか? と、なかなか恐ろしいことを言っていた)

エイジング・ルームを通り抜けると、奥に醸造設備が広がる。右側に地下の貯蔵庫へと降りる階段があり、熟成中のワインを湛えた、数年落ちのトロンセ産バリックが整然と並べられている。

昨年は、この地下室の「右側」の列のワインを、順にテイスティングさせてもらった。今回は、数日にわたり、ニコの哲学を、夫婦同伴で拝聴する「儀式」を経て、所謂「VIP用」の特別なワインが眠っているセラーの「左側」へと到達。

初訪問で、いきなり「左側」ワインを飲むラッキーを、宴会モード全開のうちの嫁さんは果たして理解しているのだろうか?

嫁とベンサ夫妻

まずはここの「シキタリ」に従いつつ、「右側」の地下の貯蔵庫から。

昨年僕が訪れた時、ソーヴィニョンを始めとする2007年の白ワインをニコがピジャージュする様子を見せてくれたが、そのワインは今も静かにバリックの中で眠っている。
(ニコは、ワインの状態や醸造工程に応じて、新樽から25年落ちの古樽まで、自在にバリックを使いこなす。)

造ったワインの解説

当時、2007年の白ワインは、いずれも揮発酸を感じた。
La Castellada ならではの柔らかな飲み心地や、「体に染みる感覚」に到達するまでには余りに若すぎたが、それでも品種の個性がワイン樽ごとに、ゴリツィアのテロワールを感じさせる明確ながあった。

スポイトでワインを注ぐニコ・ベンサ

参考までに、数年後日本で飲む時に、変化を検証する目的で記録した、僕のテイスティング・ノートには、以下のように記述している。

  • Pinot Grigio 2007(Bianco) … バリックのニュアンスがあったが、新樽は一切使っていない。
  • Pinot Grigio 2007(Maceration) … ロゼ色。熱い年だったためかやや甘く、樽によってタンニンがソフトになっていて柔らかみが出ている。
  • Tocai Friulano 2007 … まだ揮発酸が強くワインに成り立て。飲むには早過ぎる。2006もそうだったように少し濁りがある。
  • Chardonnay La Castellada 2007 … 樽の香りはしっかりと付いているが、他の品種と飲み比べると「シャルドネは水っぽい」と語る造り手が多いのも納得できる。
  • Sauvignon La Castellada 2007 … 今飲んでもOK。むちゃくちゃ美味しい。ソーヴィニョンと上記シャルドネは新樽使用。
  • Ribolla Gialla La Castellada 2007 … これぞニコ・マジック! 品種特有のタニックさや完熟していない時に出てくるぺぺ(胡椒)の香りはしない。嫁のリボッラ・ジャラ観が大きく変わった。
  • Collio Bianco della Castellada 2007 … やはりこれ!一番落ち着いている。混醸させているだけあり複雑性豊か。これぞゴリツィアの味。

「フリウリ変態ワインファン日本代表」の看板を背負い、ニコ本人に、上記のような感想を伝えた。(その都度、ニヤッと笑い返す、ニコ。)

ここまで来て、「ようやくトールも、少しはワインのことが判ってきたようだから……。」というニコの合格印が出た。
ついに、セラーの左側のエリアへ。(思えば長い道のりだな~)

こちらのバリックは、フランス・ボルドー産ではなく、バローロの大樽でお馴染み、「Garbellotto(ガルベロット)」社製。

ガルベロット制の大樽
ガルベロット制の大樽のスペシャル・キュヴェ
新しく美しいガルベロット制の大樽

よく見ると、ニコのが使うトノー(木製開放型発酵槽)やボッティ(大樽)は、すべて Garbellotto社(ガルベロット)製のものだった。 同社の工場はヴェネト州にあり、ゴリツィアまでは、車で1時間もかからないらしい。

ゴリツィアの造り手の方が、移送コスト、アフターケア、ユーザビリティという点では、ピエモンテやトスカーナの造り手よりも、優位な立地だ。(バローロ生産者やトスカーナのワイン貴族には、屁でもないお金だろうけど)

写真の Garbellotto社製の樽には、特別なワインが眠っていた。

  • Sauvignon Vecchio(古木)2007 … 現在非売品(VIP用)
  • Garbellottoの大樽で1年熟成されたSauvignon La Castellada 2006
  • Garbellottoの大樽で1年熟成されたRibolla Gialla La Castellada 2006

あまりに素晴らしすぎて、声もでない。
言葉にすることが、空しくすら思える、壮大スケール感だ。

このスペシャル・キュベを飲みながら聴く、ニコの講義は、彼のワイン哲学を裏付けるに充分な程、大変説得力のあるものだった。
彼の醸造に関するノウハウは、極めてロジカルであり、幾つもの実証の上に成り立っている。 ある意味、経験豊かな自然科学の権威といってもいいのかもしれない。

徹とニコ・ベンサのワイン論1
徹とニコ・ベンサのワイン論2
吉徹とニコ・ベンサのワイン論3
徹とニコ・ベンサのワイン論4

バリックからイノックス(ステンレスタンク)に移してからボトリングすることで、ワインを一時的に還元状態にし SO2の添加量を極限まで押さえたり、逆にワインを還元的な状態から開放する目的で樽に戻したり、酵母を活性させ熟成を進めたり、澱(おり)の臭いがワインの中に漏れ出さないような絶妙な澱引きのタイミングを導き出したり、と惜しげもなくノウハウを語りだす。しかも、どのワインにどのタイミングで、いつ何を行ったのかを、明快に覚えているから凄い。

単に、場当たり的な勘や経験に頼るのではなく、一流の醸造家ならではの、論理に紐付いたメソッドの数々。高い見識と分析力、なにより卓越した技術が備わっている醸造家だからこそ出来る、「神業」である。

一方、本気モードのニコは、他社への評価も厳しかった。

何故、カンテは Pinot Grigio の収穫を安定させることに苦労しているのか、 何故、ミアーニのワインは、年ごとに出来不出来が極端にぶれるのか、などなど、ニコ・ベンサ教授の講義は、僕に新たな知識の扉を開いてくれた。

※彼らの評価を落としかねない内容も多く含んでいたので、ここでは敢えて記載しないでおこう。

追記:(2018.10.1)
上記記事の「Sauvignon Vecchio(古木)2007 … 現在非売品(VIP用)」は、本年販売されたリゼルヴァ、”Bianco Della Castellada Riserva VRH 2007” の原料である。
この記事を書いた当時、樽に書かれていた「VRH」の文字を、「VIP」と誤読して書いた可能性が高い。 10年の時間を得て、入手できた幸せに、改めてここに記す。

La Castellada | ラ・カステッラーダ

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